脳髄日和
てらっち的ポエム、あるいはエッセイ。
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2010.04.22_05:00
よく晴れた十月の昼下がりは散策をするのにちょうど良い。
僕は一眼レフカメラを首からぶらさげて、荒川へとでかけた。
けれども、この時期の河川敷は花も咲いておらず、芝も枯れてくすんだ色をしていて、写真を撮るには些か不向きなようだった。
あたりを見渡しても、川の水はドブのように濁り、橋の上ではディーゼル車が黒煙をまき散らしているばかりだ。
高架下ではホームレスがテントを張って景観を壊しているし、土手にはうち捨てられた冷蔵庫や自転車が転がっていて正視に耐えない。
「やれやれ、東京ってのはなんて汚い街なんだろうね! アジア人ほど景観に無頓着な人種はいないんだよ、まったく! これはぜんぶ石原慎太郎のせいだな! どいつもこいつも僕の芸術的創作活動を邪魔しやがって!」
僕は思わず声にだして叫んでしまった。
すると、土手で犬を散歩させていた老人がぎょっとしてこちらを振り返った。
見てんじゃねえぞジジィ、痴呆のくせしやがって!
さすがにこれは口にはださず、ギロリと睨みかえすだけにとどめてその場を立ち去った。
「やれやれ、ツイてないね。写真には不向きな日なんだな、きっと。今日はもうあきらめて帰ろう。家でポエムでも創ろうかな、やれやれ」
そう思い、駅へ向かうため土手の階段をのぼっている、そのときだった。
シャーーーーッ! バッチコーイ! かぁっとばぁすぇ~~~! ナァーイスバッティーン!
といった奇声が、遠くから聞こえてきた。
振り返り目をこらすと、河川敷のグラウンドで狂人たちがベースボールをやっていた。
その瞬間、僕の脳内に霊感のようなものが駆け巡った。
これだ!
僕はグラウンドへ走った。
『河川敷のグラウンド、狂人たちのベースボール』。
ここには某かの芸術的テーゼらしき何かが隠されている感じがしなくもないじゃないか。
シャーーーーッ! バッチコーイ! かぁっとばぁすぇ~~~! ナァーイスバッティーン!
狂人たちの奇声がおおきくなる。
息をきらせながらグラウンドにつくと僕はすぐさまカメラのモードをフルオートに設定し、こころのおもむくままに、カメラをむける。
バットを構える狂人。
股下でサインを送る狂人。
マウンドで振りかぶる狂人。
バントヒットを狙う狂人。
白球を追いかける狂人。
ベンチから声援を送る狂人。
狂人、狂人、狂人。
連写モードでシャッターきる。
パシャシャ。
パシャシャ。
パシャシャシャシャ。
僕は夢中でシャッターをきる。
パシャシャ。
パシャシャ。
パシャシャシャシャ。
シャーターが音楽的リズムを奏でていく。
インスピレーションが稲妻のようにほとばしり、イマジネーションは無限にふくらんでいく。
「いいぞ、いいぞ! 狂人ども、もっとやれ!」
しかし狂人たちは突如ゲームを中断してしまった。
マウンド上にいた狂人がひとり、肩をいからせながらこちらにやってくる。
つり目であごの尖った、いかにも狂人といった風の男だった。
僕を睨みつけながら、狂人が口を開いた。
「ねえ、あんた、なにやってるわけ」
どうやら狂人には、僕が行っている芸術的創作活動が理解できないようだ。
「ねえ、あんた、なにやってるわけ。さっきから。撮ってんの?」
撮っていないとしたら一体なにをしているというのだろう。
頭の悪い質問に僕は驚かされる。
それ以前に、狂人の粗野な言葉づかいにも驚かされる。
「誰の許可があって撮ってんだよ。なんとかいえよ、オイ、誰の許可があって撮ってんだって聞いてんだよ、コラ、なめてんの?」
狂人をまともに相手にしていたら身が持たない。
僕はやれやれ、といった感じで無視を決めこんだ。
すると狂人は僕の肩を小突き、
「お前さ、肖像権って知ってる? 人様を勝手に撮っちゃいけないわけ。プライバシーってもんがあんだろ、誰にだって。法律で決められているわけ。な、わかる?」
などと肖像権についてとくとくと説明しだした。
それを見て、僕の脳内にまたインスピレーションの稲妻がビリリと走った。
僕は狂人にカメラをむけてパシャシャと連写した。
『肖像権について語る狂人』。
実にシュール。
しかし、それが狂人に火をつけてしまったようだ。
狂人は突如として野獣のような奇声をあげて、僕に襲いかかってきた。
僕はすばやく身を引き、それをかわす。
しかし狂人の運動能力は僕のそれを上回っていたようで、まさしく動物的な身のこなしで僕の服の裾を掴むと、そのまま力任せに組み伏そうとしてくる。
すると、他の狂人たちが一斉に突進してきて、僕と僕を襲おうとした狂人とを引きはがし、羽交い締めにして取り押さえた。
僕は両脇を狂人に押さえられる格好となった。
一方、僕を襲おうとした狂人もまた両脇を押さえられ、まあまあ冷静になろうよ、キャプテンなんだからさ、暴力はまずいよ、などと別の狂人になだめられていた。
僕を襲おうとした狂人は、どうやら狂人たちのキャプテンらしかった。
それにしても狂人どもはつくづく低能だ。
僕を襲おうとした狂人を取り押さえたのはいいとしても、なぜなにもしていない僕までも取り押さえる必要があるのだろうか。
暴力などという野蛮な行為を僕がするはずないというのに。
しかしそうはいうものの、この状況はあまりにも分が悪い。
狂人とはいえ相手は二十人以上だし、僕はすでに身動きがとれない体勢になってしまっている。
取っ組み合いになったら、こちらにはなす術はないだろう。
さすがにこのままなにもしないでいるわけにもいくまい。
僕は狂人たちにに対して、反撃にでることにした。
「お前ら一丁前にベースボールなんかやりやがってイチローにでもなったつもりか! 素人ごときがメジャーリーガー気取ってんじゃねえよ、インチキ野郎ども! お前らホントはベースボールがやりたいんじゃなくてイチローみたいな格好いいプレーしてキャーキャーいわれたいだけのくせしやがって! ベースボール始めたのも情熱大陸かなんかにイチローがでてるのみて感化されたクチだろ、クソ喰らえ! そのくせ、自分たちはベースボールを愛してます、みたいな顔しやがって、ちゃんちゃらおかしいぜ! この似非アスリートどもめ!」
僕の啖呵に何人かの狂人は気圧されたようだったが、しかし一人がすぐさま 口を開いた。
「なにいってんの、こいつ。頭おかしいんじゃね?」
まったく、この発言にはおもわず吹き出してしまった。
「頭おかしいだって! 僕の頭がおかしいだって! おいおいおいおい、勘弁してくれよ! まったく笑っちゃうよなあ、このクソ野郎! 正真正銘のキチガイ、頭のトチ狂った狂人さんが他人を指して『頭おかしいんじゃね?』だってよ! 滑稽すぎるな、一種のコメディだぜ、こりゃ! なあ、一体頭狂ってんのはどっちだい? 答えるまでもないよな、やれやれ、このイカレポンチどもが! 頭の狂ったキチガイ野郎! この狂人狂人狂人!」
すると、僕を襲おうとしたキャプテンの狂人がせせら嗤った。
「おい、たしかに今ここに一人だけ頭のトチ狂ったキチガイ野郎がいるな」
それを聞いて、他の狂人たちも口々に、いるいる、キチガイが一人いるわー、などと一斉にはやしたてだした。
まったく、これには笑うしかない。
「やれやれ、『一人だけ』ときたか! そうきますか、まったく! お前ら狂人どもを相手にするのは本当に疲れるよ。いいか、教えてやろう。頭のトチ狂ったキチガイ野郎ってのはな、たいていの場合、自分が狂人だってことに気がついてないんだよな!」
最後の言葉は、なにかのアフォリズムのようだったので、僕はもう一度くり返してやった。
「狂人は、自分が狂人であると知らない!」
この言葉には、さすがの狂人たちも閉口したようだった。
連中は互いに顔を見あわせたり、呆れたそぶりをしたりし、
「もういいわ、こんなん相手にしてもしょうがないわ」
などと負け惜しみをいうのが精一杯のようだった。
中には肩をすくめるジェスチャーをする者もいた。
すかさず僕は、そいつを指差していった。
「見たか! こいつ今、肩をすくめやがったぞ! ほら見たことか、これが証拠だよ! 日本人のくせして肩なんかすくめやがって、お前らやっぱりメジャーリーガー気取ってやがるんだ、ちくしょう! 外国のお洒落っぽいことならなんでもやっちゃうんだよな、お前らは、クソッ、反吐がでるぜ、この俗物どもが!」
しかし連中は聞く耳を持たず、僕に向かってシッシッと犬でも払うように手を振り、行こうぜ、相手にすんな、続きやろうぜ、などと口々に言いあいながら退散していった。
「おもい知ったか、狂人ども!」
僕は高らかに勝利を宣言した。
それから狂人たちは、なにごともなかったかのようにまた、
「シャーーーーッ! バッチコーイ! かぁっとばぁすぇ~~~! ナァーイスバッティーン!」
などと奇声をあげながらゲームを再開したので、僕もなにごともなかったかのようにまた撮影を再会した。
カメラのモードをフルオートに設定し、
こころのおもむくままに、カメラをむける。
バットを構える狂人。
股下でサインを送る狂人。
マウンドで振りかぶる狂人。
バントヒットを狙う狂人。
白球を追いかける狂人。
ベンチから声援を送る狂人。
狂人、狂人、狂人。
連写モードでシャッターきる。
パシャシャ。
パシャシャ。
パシャシャシャシャ。
僕は夢中でシャッターをきる。
パシャシャ。
パシャシャ。
パシャシャシャシャ。
シャーターが音楽的リズムを奏でていく。
インスピレーションが稲妻のようにほとばしり、イマジネーションは無限にふくらんでいく。
「いいぞ、いいぞ! 狂人ども、もっとやれ!」
やがて陽が暮れはじめてきて、狂人たちのベースボールは終了した。
狂人たちは最後に整列して、
「あっざぁーしたー!」
などとまたわけのわからない嬌声をあげていた。
「やれやれ、ろくでもないベースボール観戦だったな! まったく、疲れたよ。芸術的創作活動ってのはかくも大変なものなんだね!」
僕は西に傾いた太陽に向かって叫んだ。
どっと疲れがこみあげた。
写真撮影というのは、ベースボールの比ではないほど体力を消耗するのだ。
僕は土手に腰をおろし、しばらく休むことにした。
沈みゆく秋の夕日が、枯れて色あせた河川敷を赤く染めあげていた。
すると、例の狂人のキャプテンがこちらにむかって歩いてきた。
さきほどのような肩をいからせた感じではなく、ゆったりとした足取りだった。
僕も身構えるようなことはせず、おい君、なにか用かね、といった感じで鷹揚に出迎えてみせる。
しかし狂人のキャプテンは、僕の前まで歩み寄ると、突如として動物的な俊敏さで僕から一眼レフカメラをひったくった。
これには驚かされた。
が、僕は動揺を表にださないよう努めて、余裕たっぷりにいった。
「おい君、なにをするんだね。返したまえ」
しかし狂人のキャプテンは僕を無視して、河原のほうへくるりと向きなおると、一眼レフカメラをおもいきりぶん投げた。
狂人の肩は強靭だった。
ぶん投げられた一眼レフカメラは夕暮れの空にきれいな放物線を描いて、反対岸の河川敷まで飛んでいった。
枯れた草むらのあたりに落ちて、カシャン、と乾いた音を響かせた。
狂人のキャプテンは、
「なんだよ、川に落とそうとおもったのに」
といって嗤った。
僕も、
「あーあ、新しいカメラかわなくちゃ」
といって笑った。
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