脳髄日和
てらっち的ポエム、あるいはエッセイ。
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2010.04.22_05:00
昔、ジャングルに一頭の猿がいた。
度外れに強欲で、かつ傲慢な、しかし他のどの猿よりも頭の賢い猿だった。
猿は、大抵のことならなんでも知っていた。
効率よく食料を得るにはどこへ行けばよいか。
外敵から身を守るにはどうすればよいか。
好みの雌を手中に収める最良の方法はなにか。
それらすべてを、完璧に理解していた。
しかし猿は、群れの仲間たちを見下していたので、それらの知識を誰かに教えることは決してなかった。
そのため群れの仲間たちからは嫌われていた。
妬まれ、疎まれ、恨まれ、同時に畏れられてもいた。
あるとき猿は、群れの仲間たちにむかってこう言った。
「"心"とは一体なんだ? どんな形で、どんな大きさで、どんな色をしている?」
猿は、自分が史上最も優れた知能を持つ生物であることを自負していたが、しかしこの世のありとあらゆることを知り尽くしているわけではないこともまた、理解していた。
猿が最も愛する行為は、美味いものを食うことでもなければ、誰かを打ち負かすことでもなく、雌をはべらすことでもない。
それは、知的探求だった。
猿はすべてを知りたかった。
知識を得るためならばいかなる努力も惜しまなかったし、なににもまして貪欲だった。
「おい低能ども! 俺は"心"がなんであるかをまだ知らない! 万が一、お前らの中に"心"がどんなものか知っているものがいたなら、俺に教えてみろ! それができたなら代わりに俺の知っていることを教えてやるぞ!」
しかし、答える者はいなかった。
皆、互いに顔を見合わせるか、途方に暮れているばかりで、到底答えられそうにはなかった。
「クソッ、知能薄弱の屑どもが! お前らと同じ種族だと思うと虫酸が走るわ! じゃあ、お前はどうだ! お前は知っているか! "心"とはなんだ!」
猿は木の枝にとまっている小鳥を指差した。
「もし知っているなら今すぐ教えろ!」
しかし、小鳥は木の実をついばむのに夢中で、猿の言葉は耳に入っていないようだった。
「クソッ、下等生物が! じゃあ、お前らはどうだ!」
猿は、ジャングルの隅々まで響き渡らんばかりの声で叫んだ。
「俺は物心ついたころからずっと"心"とは一体なんであるかについて考えてきたが、未だに答えがでない! お前らはもう何千年も生きているのだろう! "心"とはなにか知っているんじゃないか! おい、教えてみせろ!」
しかし、答えはなかった。
ジャングルの木たちは、ただ無言で猿を見下ろしているだけだった。
「クソッ、木偶の坊め! お前らはいつもその調子だな!クソ、クソ、クソ、どいつもこいつも低能なクソばかりだ! この世界には"心"がなんであるかを知っている奴はいないのか! 俺は"心"がなんであるか知りたい!知りたい、知りたい、知りたい、知りたいぞ!」
そのとき、鬱蒼と茂るジャングルに、一筋の光が差し込んだ。
「いいだろう、私が教えて差し上げよう」
猿は頭上を見渡した。
ジャングルの木々よりも遥か高いところから声がした。
「何者だ! どこから喋っている!どんな形で、どんな大きさで、どんな色をしている? 姿を見せろ! 氏素性を明かせ!」
頭上の声の主が言った。
「私は世界を照らす存在。あなた方の頭上、遥か彼方から話かけている。丸くて、巨大な、すべての色の源。名前はまだない」
「わかった、わかったぞ! 俺はわかったぞ! いつかお前を、木々の合間から見上げたことがある! あのまぶしい奴だ!」
「いかにも。私は大昔から世界に光を注いでいる。あなたはジャングルにいるのであまり私の存在を気にかけていなかったようだ」
「お前か! お前が喋っているのか! よし、俺が名前を与えてやろう! お前は、『太陽』だ! 丸くて、でかくて、まぶしいから、お前は太陽だ! おい、太陽よ! 教えてみせろ! "心"とは一体なんだ? どんな形で、どんな大きさで、どんな色をしている?」
「名前をくれてありがとう。代わりに"心"とはなにかを教えて差し上げよう」
「よし! 言ってみろ!」
「"心"は、目に見えないところにある」
「ふざけるな! 目に見えないところとはどこだ? 目に見えなかったら、どんな形で、どんな大きさで、どんな色をしているのかわからないではないか!」
「そう。どんな形で、どんな大きさで、どんな色をしていのか、目で確認することはできない」
「ペテン師め! 詭弁を弄する気か!」
「いいや。本当のことさ。目には見えない。しかし、感じることはできる。感じて、想像するのさ」
「なんだと! もっとわかりやすく説明しろ!」
「そう、例えば。足下を見てごらん。そこに陽だまりがあるだろう。その陽だまりに、手を置いてみたらどうだろう?」
「陽だまりだと?」
猿は足下を見下ろした。
木々の間から差し込んだ光が、陽だまりをつくっていた。
猿は陽だまりに、手を差し伸べてみた。
「おお! ぬくいぞ! なんだかぬくいぞ!」
「そうさ。それが心の温かさだよ」
「わかった! わかったぞ!」
猿は歓喜した。
「俺は知ったぞ!わかった、わかった、わかった、ついにわかったぞ! そしてそれだけじゃない! 俺は新しいことを知ったぞ! 新しいことも! 感じて、想像するということだ! おい、太陽! 太陽よ、もっと教えろ! もっと新しいことを、俺に教えてみせろ!」
猿の手から、暖かさがすっとひき、陽だまりが消えた。
太陽に雲がかかり、ジャングルは再び鬱蒼とした気配に包まれた。
「おい、待て! もっと陽だまりを感じさせろ!」
猿は叫んだ。
「おい、太陽! 返事をしろ!」
しかし返事はなかった。
猿は、ジャングルで最も背の高い木を目指して駆け出した。
枝から枝へと飛び移り、あっという間にてっぺんへと登った。
木のてっぺんに立ち、空を仰ぐと、猿はもう一度叫んだ。
「おい、太陽! 返事をしろ! もう一度姿を見せろ!」
空の大部分は分厚い雲に覆われていて、太陽が再び姿を現すことは、当分なさそうだった。
「クソッ! 俺はもっとお前と話がしたい! 話がしたいぞ! 知りたいことがまだまだある! 知りたい、知りたい、知りたい、知りたいぞ! クソッ! しかしな、太陽よ! いいか太陽よ、よく聞け! 俺はまた新しいことを知ったぞ! おい、太陽よ、聞こえているか? 俺はまた新しいことを知った! まさに今、知った! お前が教えてくれたんだ! お前はもう一つ、新しい知識を俺に与えた!」
猿は、周囲を見渡した。
ジャングルで最も背の高い木のてっぺんから、世界が見えた。
鬱蒼と茂るジャングルが広がり、その外側には大地が広がっていた。
地平線の遥か彼方まで続いている、広大な大地だった。
「世界は広い! こんなにも広いぞ! こんなにも広いんだ! 俺はすべてのことを知りたいし、いつも光を浴びていたい! いいか、太陽よ! 俺は決めたぞ! 俺は世界のすべてを見てやる! そして世界のすべてを感じてやる!」
猿は木から降りると、ジャングルの外側を目指して駆け出した。
木から木へと飛び移ることはしなかった。
「大地だ! 俺は大地で生きるぞ!」
猿は四本の手足で地面を蹴り、ジャングルを全力で駆け抜けた。
「俺はすべてが知りたい。すべてを感じたい。世界のすべてを、俺によこせ!」
そうして猿は、ジャングルを抜け出し、広大なアフリカの大地に脚を踏み出したのだった。
  それが、われわれの歴史の、最初の一歩だった。
   -てらっち聖書・第一章『われわれの始まり』より-
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