脳髄日和
てらっち的ポエム、あるいはエッセイ。
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2010.04.23_16:10
「近頃おなじ夢ばかり見るんです。何度も何度も何度も。それもきまって眠りの浅いときに。夜、ぐっすり眠っているときにはなんの夢も見ないんですよね。けれど、たとえば電車やバスなんかに乗っているとき、ついうとうとしてしまうことがあるでしょう? そんなときによくある、半覚醒状態というか……眠っているのか、起きているのか、どちらともおぼつかない状態。そういうあやふやな眠りのときに必ずおなじ夢を見るんです。夢……というか、断片的なイメージといったほうが正しいでしょうか。ストーリーもないし、人物もでてこない。なんの意味も表さない、無味乾燥な、たんなるイメージの連続です。その内容を具体的に申しますと……ええと、まず『そこ』にはなにもありません。ただ真っ白な世界が続くだけです。地平線の先まで、とにかくなにも存在しません。いや、地平線すらない。本当になにもない。空っぽの空間です。そこには僕すら存在していません。いえ、もちろんその空間を見ているのは僕自身ですから、僕はその空間に存在しているはずですが……ですけど存在しないんです。矛盾しているようですが、とにかくそうなんです。誰もいない。なにも存在しない。そんな空間です。で、その空間が、どんどん崩壊していくんです。次から次へと崩れていく。すみません、これも矛盾していますね。空っぽの空間なのに、なにかが崩壊するだなんて。けれど、そうとしか説明しようがない。そういうイメージなんです。崩壊がどんどんこちら側に迫ってきて、飲み込まれそうになるんですけど、いつまでたっても飲み込まれることはない。崩壊が迫ってくる、という状態が延々と続くんです。もう、本当に、絶え間なく。それがずっと続く。目が覚めるまで。いったいこれはなんなんでしょう? まったく、頭がどうかしてしまいそうですよ。あるいは、もうすでにおかしくなっているせいなんでしょうかね。とにかく、先生、なんとかしてください! もう耐えられない。この悪夢から逃れるすべはないのですか? 」
「それは、宇宙の夢ですよ」
「……なんですって? 宇宙の夢?」
「はい。宇宙の見る夢です。宇宙の見ている夢があなたの意識の中に流れ込んできて、そのせいであなたは奇妙な夢を見ている。……と、いきなりいってもなんのことだか解らないでしょうから、順を追って説明しましょう。いいですか、まず、我々は夢を見ます。眠れば大抵の場合、なにかしら夢を見ますよね。あるいは、こうであったらいいのになあ、こうなりたいなあ、というような願望や希望の類もここでいう夢に含まれます。ですから我々はほとんど四六時中夢を見ているといっても過言ではありませんね。ではいったい、なぜ我々は夢を見るのか? 答は簡単です。宇宙がそれを欲しているからです。夢は宇宙の栄養源なのです。突拍子もない話だとお思いですか? ですがこれは決して与汰話ではありません。身近な例をひとつ挙げましょう。たとえば、私は昨晩見た夢の内容を思い出せません。なにかしらの夢を見たはずなのですが、しかしその内容は思い出せない。私だけでなくほとんどすべての人がそうですよね。目が覚めた直後ははっきりと覚えているのにもかかわらず、顔を洗って歯を磨く頃には夢の記憶など忘却の彼方です。よほど印象に残った夢ならばしばらくの間は記憶にとどめているかもしれない。けれども、それだって時とともに風化していきます。願望や希望も同様です。時がたつにつれ徐々に薄らいでしまいます。なぜなら。宇宙が夢を飲み込んでしまうからですよ。我々が見る夢を宇宙は吸収し、胃袋に納めます。そののち夢は消化され、エネルギーに代えられます。宇宙はそうして得られるエネルギーによって膨張しているのです。もちろんここでいう胃袋というのはひとつの比喩ですよ。実際に宇宙が内蔵をもっているわけではありません。ちょうど我々が食物を取り込んでエネルギーに代えるのと同じように、宇宙もまた夢を取り込んでエネルギーに代えているのです。目に見えないところでね。そして、無数の夢が吸収され胃袋に納められた状態、これを研究者のあいだでは宇宙の見る夢と呼んでいます。つまりは我々の見る夢の集合体、それが宇宙の見る夢の正体です」
「はぁ……なるほど。あ、いや、なるほどというか、正直なところうまく理解できないのですが……とにかくあなたのいっていることの理屈はだいたい咀嚼できました。宇宙は我々の見る夢を取り込んでエネルギーに代えている、その過程で集められる無数の夢を指して宇宙の見る夢と呼ぶ、と。いささか信じがたい話ではありますが、ですが先生が仰るからにはきっとそうなのでしょう。そういうこととして了解します、が……それで一体、そのことと私の見る奇妙な夢とのあいだにどういった関係があるのでしょう?」
「はい。ここからが本題です。さきほど申し上げたとおり宇宙は我々の見る夢を飲み込んでいます。しかしですね、ごく稀にではありますが、宇宙の見る夢のほうが人間に向かって流れ込んでしまうことがあります。逆流ですね。あなたがまさにそのケースです」
「……逆流」
「はい。夢の逆流です」
「というと、つまり、私の見ているあの奇妙な夢はいわゆる宇宙の見ている夢だと。そういうことですか?」
「ええ、そう捉えてもらってかまいません。が、しかしまあ、あえて正確にいうならば、あなたの見ている夢は宇宙の夢を逆さまにしたものですね。といいますのは、まさに夢が逆流しているからですよ。たとえば、カセットテープに録音された音楽を逆再生した場合を想像してみてください。美しいはずのメロディも逆回しで聞くと意味不明な不協和音です。あなたの見ている夢にも同じことがいえます。逆流してきたものだから、意味不明で不快な悪夢になってしまうのです」
「はぁ、なるほど。それはわかりました。で、ではいったい、どうすれば通常の方向で再生できるのですか?」
「いいえ、その必要はありません。さきほども申し上げたとおり、本来ならば我々のほうから宇宙に向かって流れてゆくはずのものが、逆流してきているのです。ですから逆流そのものを止めてやるのが正しい対処法です」
「わかりました、わかりました。それで、逆流を止めるにはいったいどうすればよいのかを教えてください、お願いします」
「もちろんです。簡単な話です。夢を見ればよいのです」
「は……? ええと、あの、すみません、ですから」
「いえいえ、夢というのは、悪夢のほうではなくて夜中に眠っているときに見る夢のことですよ。あるいは、こうであったらいいのになあ、こうなりたいなあ、というような願望や希望の類も含まれます。あなた、さっき仰いましたよね、夜ぐっすり眠っているときには夢を見ないと。あるいはあなた、願望や希望もお持ちでないのではありませんか? それがいけない。いいですか、我々の見る夢を宇宙が取り込むというのは、一種の自然の摂理のようなものです。泉で水が湧き、川を通って海に流れ込むのと同じことです。我々の見た夢は必ず宇宙に向かって流れてゆきます。ですが、湧き水が枯れてしまったらどうなります? 海が枯れることはありませんが、泉はもはや泉ではなくなってしまいます。存在しないも同然。死です。あなたが夢を見ないから、逆流が起こるのですよ。水流にしろ電流にしろ、流れというものは必ず一方通行です。夢の流れもこの万物の法則に従っています。ですから、あなたが夢を見さえすれば、宇宙に夢を流しさえすれば、逆流することはないのです。では、なぜあなたが夢を見るのをやめてしまったのか。それはわたしにはわかりません。あるいは心理的なものに起因しているのかもしれませんが……残念ながらそれはわたしの専門外です。専門の機関にかかるのがよろしいでしょう。わたしから紹介することもできます。しかし、まあ、いずれにしろ目的ははっきりしましたね。夢を見ればよい。それだけです」
「なるほど……とはいえ、夢を見ろといわれましても、ねえ。べつに意識して夢を見ないようにしているわけでもありませんし……」
「ふむ。これは少々申し上げにくいことなのですが……しかし率直に申しましょう。そんなに悠長に構えている暇はありませんよ。さきほど泉が枯れることは死だと申しましたが、これはたんなる比喩ではなく、文字通りです。このままの状態が続けば、いずれあなた、死にますよ」
「なんですって!」
「ええ。なにしろ、大きな器から小さな器に向かって流れて込んでいるわけですからいつかは容量を超えてしまいます。水の場合はあふれてこぼれるだけですが、夢はちがいます。容量の限界を超えれば爆発します」
「ば、爆発!?」
「ええ。そうです。器というよりは、ゴム風船にたとえたほうが的確でしょうか。一定量を超えるとはじけ飛んでしまいます。といっても、もちろんあなたの体が突然どかんと爆発するわけではありませんよ。爆発するのは、心です」
「つまり……精神が崩壊してしまうということですか?」
「まあ、そのようなものですね。眠りの浅いときによく見るということですから、症状はまだ初期段階ですね。流れ込んできている宇宙の夢の量が少ない証拠です。これがぐっすり眠っているときにまで例の夢を見るようになると、非常に危ない。末期です。風船はもう爆発寸前。そうなる前に、なんとかしないと」
「……」
「ですから。あなたは一刻も早く夢を見る必要があります。夢を取り戻すのですよ。願望を抱きましょう。希望を描くのです。さあ、よく干したふかふかのベッドに横になって。素敵な夢を見ましょう!」

そこで目が覚めた。
妙にリアルな感触のする夢だった。
その内容を、ここに記しておく。
この夢が宇宙に飲み込まれてしまう前に。
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